×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
すごくたまーに書いている
ボディガードマスタング×経済学者エドワード
の続き。
過去ログは、コレ
正月三が日も過ぎ、人々が日常の生活を取り戻した頃、我々は神社にいた。
これこそ、正月を終えて目に見えて平穏を取り戻した場所のひとつであろう。
快晴の午後二時。数日前ならば、前に進むこともできないほどに混み合っていたに違いない境内は広々と歩くことができる平日の顔をしていた。
「へー、正月過ぎれば全然人がいないのかと思ったら、わりといるじゃん」
「一応まだ冬休みですからね。教授も同じご身分でしょう」
「学生の論文を読むのに忙殺される冬休みなんて大学教授には必要ねえんだよ」
うんざりした顔でそう言うと、エドワードは寒いのかコートのポケットに両手を突っ込んで小さく身震いをした。
正月三が日を過ぎた平日にのんびりと初詣。これだけ聞くとなんとも平穏で優雅な日常を送っているように聞こえるが、同行しているのがボディガードという時点で平穏でも優雅でも何でもない。
結局、教授に対する脅迫犯は捕まらないままに年を越えてしまった。
学生が提出した卒業論文を読んで、その論文に対する質問を考えなくてはいけないと言って、大量の論文に埋もれていた正月。
やっと一段落ついたところで、彼から言われたのは『お前、初詣に行ったか?』という一言だった。
初詣も何も、年越しから正月までずっと護衛をしていたじゃないですか。と返すと、コートを投げられてそのまま外へと連れ出された。
自分から行こうと言っておいて、どこに神社があるかも知らない教授のために新年初めてカーナビを使った。
神社についてからも、自分からなかなか動こうとしない教授を先導する形で初詣は始まった。この人の気まぐれは今に始まったことではないが、無理矢理連れ出しておいて、やる気のない態度を見せられると雇い主とはいえ文句のひとつも言いたくなってくる。
子供相手だ、と、ぐっと堪え、賽銭箱の前まで連れて行った。本来なら、先に教授にしてもらうところだが、未だに二歩後ろに構えている彼を引っ張り出す気にもなれなかったので鈴を鳴らし、賽銭を投げ入れた。
その様子を見た教授は、ゆるゆると前進すると同じように参拝し、まっすぐと前を見つめたまま手を合わせていた。
「オレ、これが初詣だ」
「初詣なのは私も同じですが」
「ちっげーよ!人生、初詣!」
一瞬、何を言っているのかわからなくて静止した後、言葉の意味を理解した瞬間に誰にも聞こえないくらいのボリュームで、小さくまぬけな声を出してしまった。
日本の神様を前に、何という失態だろう。
「今まで、神社に来たことないんですか?」
「だってオレ、子供のころから日本にほとんどいなかったし。日本に来てからは、そんなもの行きたいと思いもしなかったし」
平然とそう言うが、日本の平均的な家庭で生まれ育った自分には理解しがたい話だった。大人になってからはともかく、子供のころの私は、初詣はもちろんだが七五三だの、地域の祭りだの神社に出かける機会は多かったように思う。
彼が帰国子女の天才経済学者で、日本のありがちな文化が彼にとっては非凡なことであるのだと今更実感した。
そして、自分から初詣に誘っておいて、自分から動こうともせずに私の後ろについて回ってきたのも頷ける。彼は、初詣が何をするのか知らなかったのか。
「それならそうともっと早く言ってくだされば」
「やだよ!だっせーだろ!!」
何が、と思ったが、言葉にするのはやめた。
人生初詣の相手に選ばれたのが自分だという事実に気付くと、何だか急に気恥ずかしい気持ちになった。
そういうことだろう。今まで一度も初詣に行ったことがないから連れて行って、は、言われた私の方も妙も意識してしまう。
参拝を終えると、一通り神社で売っているものの説明をした。おみくじ、絵馬、お守り、どれも興味なさそうにしていてこの人らしいな、と思う。
「じゃあ、お守り買う」
そう言って、お守り売り場に行くと大量のお守りと睨めっこを始めた。
こんなにも多種多様なお守りが存在しているとは思わなかったのだろう、ずらりと並んだお守りを見た瞬間に彼の眼が大きく見開いたのを見逃さなかった。
お守りを見回して、一つを選び出して購入したかと思うとそのままお守りが入った袋を目の前に突き出してきた。
「何ですか?」
「やるよ。優しいオレからのプレゼント」
「何のお守りです?」
「よくわかんねえ。開けて見てみれば?」
そう言われ、目の前で袋から取り出してみると、そこには『必勝祈願』と書かれていた。
「大事に、します…」
「おー。アレだ、胸ポケットにいれとけば、銃弾から守ってくれるんじゃね?」
どこまで本気で、どこまで冗談で言っているのだろう。
そして、私に何に打ち勝てと言うのだろう。強いて言うならば、今目の前にいる自由奔放な雇い主くらいだ。
これで仕事は終えたと、エドワードは車に戻り始めた。
ものの10分で終わった初詣だ。彼の本当の意味での初詣がこれでよかったのか不安がよぎる。
「もう少し早い時期に来れば屋台も出ていて賑わっていたのですが」
「別にいいって。初詣がどんなものかもわからないオレにしてみれば十分だよ」
行きとは反対に、エドワードの背中を追いかける形になる。十分な初詣をさせられなかったと気遣っている自分に対して、教授は気遣っているようだ。
迷信めいたものに一切興味のなさそうな彼がわざわざお守りを買って渡してきたのも、そういう気持ちがあったのだろう。
「ありがとう。連れて来てくれて」
背向けたまま言われる。
どんな顔をして言っているのか。
もし、面と向かって言われていたならば、反射的に『どうしてそんなに可愛いんですか』くらい口走っていたかもしれない。
「教授」
「おう?」
振り返った彼の表情はいつもと同じだった。ただ、何を言われるのか、という緊張感は隠せてはいないけれど。
「さっき、お願い事したんでしょう?何をお願いしたんです」
「ああ。身長が伸びますように、って…まあオレはまだ成長期だから願う必要もないけど、保険としてな!そこらへん勘違いするなよ!」
脅迫犯に付け狙われている人間のする願い事か、と内心苦笑した。ただ、納得の願いごとである。
「で、お前は?」
当然返ってきた同じ質問。遠隔操作のキーで車の鍵を開錠し、エスコートするように助手席の扉を開いて、微笑んで見せた。
「人に言うと叶わなくなるそうなので、秘密です」
二、三回、口をパクパクさせた後、流れるように文句を言い出した教授を助手席に押し込めて車を走らせた。
帰路、ずっと隣から聞こえてくる雑音も仔犬か何かが一生懸命吠えているのだと思えば可愛いものだ。
神様へお願いすれば叶うと信じているほど純粋ではもうないけれど、この願いごとは神様以外の人間に聞かれたくはないな、と思う。
『気まぐれでもわがままでも何でもいいから、この人が楽しそうにしてくれますように』
脅迫犯に狙われている人間のボディガードがする願いごとでは、ないのだろう。
end.
たまに書きたくなるなる。
きっと、私の中のロイエドで一番書きやすいんだろうね。
ボディガードマスタング×経済学者エドワード
の続き。
過去ログは、コレ
正月三が日も過ぎ、人々が日常の生活を取り戻した頃、我々は神社にいた。
これこそ、正月を終えて目に見えて平穏を取り戻した場所のひとつであろう。
快晴の午後二時。数日前ならば、前に進むこともできないほどに混み合っていたに違いない境内は広々と歩くことができる平日の顔をしていた。
「へー、正月過ぎれば全然人がいないのかと思ったら、わりといるじゃん」
「一応まだ冬休みですからね。教授も同じご身分でしょう」
「学生の論文を読むのに忙殺される冬休みなんて大学教授には必要ねえんだよ」
うんざりした顔でそう言うと、エドワードは寒いのかコートのポケットに両手を突っ込んで小さく身震いをした。
正月三が日を過ぎた平日にのんびりと初詣。これだけ聞くとなんとも平穏で優雅な日常を送っているように聞こえるが、同行しているのがボディガードという時点で平穏でも優雅でも何でもない。
結局、教授に対する脅迫犯は捕まらないままに年を越えてしまった。
学生が提出した卒業論文を読んで、その論文に対する質問を考えなくてはいけないと言って、大量の論文に埋もれていた正月。
やっと一段落ついたところで、彼から言われたのは『お前、初詣に行ったか?』という一言だった。
初詣も何も、年越しから正月までずっと護衛をしていたじゃないですか。と返すと、コートを投げられてそのまま外へと連れ出された。
自分から行こうと言っておいて、どこに神社があるかも知らない教授のために新年初めてカーナビを使った。
神社についてからも、自分からなかなか動こうとしない教授を先導する形で初詣は始まった。この人の気まぐれは今に始まったことではないが、無理矢理連れ出しておいて、やる気のない態度を見せられると雇い主とはいえ文句のひとつも言いたくなってくる。
子供相手だ、と、ぐっと堪え、賽銭箱の前まで連れて行った。本来なら、先に教授にしてもらうところだが、未だに二歩後ろに構えている彼を引っ張り出す気にもなれなかったので鈴を鳴らし、賽銭を投げ入れた。
その様子を見た教授は、ゆるゆると前進すると同じように参拝し、まっすぐと前を見つめたまま手を合わせていた。
「オレ、これが初詣だ」
「初詣なのは私も同じですが」
「ちっげーよ!人生、初詣!」
一瞬、何を言っているのかわからなくて静止した後、言葉の意味を理解した瞬間に誰にも聞こえないくらいのボリュームで、小さくまぬけな声を出してしまった。
日本の神様を前に、何という失態だろう。
「今まで、神社に来たことないんですか?」
「だってオレ、子供のころから日本にほとんどいなかったし。日本に来てからは、そんなもの行きたいと思いもしなかったし」
平然とそう言うが、日本の平均的な家庭で生まれ育った自分には理解しがたい話だった。大人になってからはともかく、子供のころの私は、初詣はもちろんだが七五三だの、地域の祭りだの神社に出かける機会は多かったように思う。
彼が帰国子女の天才経済学者で、日本のありがちな文化が彼にとっては非凡なことであるのだと今更実感した。
そして、自分から初詣に誘っておいて、自分から動こうともせずに私の後ろについて回ってきたのも頷ける。彼は、初詣が何をするのか知らなかったのか。
「それならそうともっと早く言ってくだされば」
「やだよ!だっせーだろ!!」
何が、と思ったが、言葉にするのはやめた。
人生初詣の相手に選ばれたのが自分だという事実に気付くと、何だか急に気恥ずかしい気持ちになった。
そういうことだろう。今まで一度も初詣に行ったことがないから連れて行って、は、言われた私の方も妙も意識してしまう。
参拝を終えると、一通り神社で売っているものの説明をした。おみくじ、絵馬、お守り、どれも興味なさそうにしていてこの人らしいな、と思う。
「じゃあ、お守り買う」
そう言って、お守り売り場に行くと大量のお守りと睨めっこを始めた。
こんなにも多種多様なお守りが存在しているとは思わなかったのだろう、ずらりと並んだお守りを見た瞬間に彼の眼が大きく見開いたのを見逃さなかった。
お守りを見回して、一つを選び出して購入したかと思うとそのままお守りが入った袋を目の前に突き出してきた。
「何ですか?」
「やるよ。優しいオレからのプレゼント」
「何のお守りです?」
「よくわかんねえ。開けて見てみれば?」
そう言われ、目の前で袋から取り出してみると、そこには『必勝祈願』と書かれていた。
「大事に、します…」
「おー。アレだ、胸ポケットにいれとけば、銃弾から守ってくれるんじゃね?」
どこまで本気で、どこまで冗談で言っているのだろう。
そして、私に何に打ち勝てと言うのだろう。強いて言うならば、今目の前にいる自由奔放な雇い主くらいだ。
これで仕事は終えたと、エドワードは車に戻り始めた。
ものの10分で終わった初詣だ。彼の本当の意味での初詣がこれでよかったのか不安がよぎる。
「もう少し早い時期に来れば屋台も出ていて賑わっていたのですが」
「別にいいって。初詣がどんなものかもわからないオレにしてみれば十分だよ」
行きとは反対に、エドワードの背中を追いかける形になる。十分な初詣をさせられなかったと気遣っている自分に対して、教授は気遣っているようだ。
迷信めいたものに一切興味のなさそうな彼がわざわざお守りを買って渡してきたのも、そういう気持ちがあったのだろう。
「ありがとう。連れて来てくれて」
背向けたまま言われる。
どんな顔をして言っているのか。
もし、面と向かって言われていたならば、反射的に『どうしてそんなに可愛いんですか』くらい口走っていたかもしれない。
「教授」
「おう?」
振り返った彼の表情はいつもと同じだった。ただ、何を言われるのか、という緊張感は隠せてはいないけれど。
「さっき、お願い事したんでしょう?何をお願いしたんです」
「ああ。身長が伸びますように、って…まあオレはまだ成長期だから願う必要もないけど、保険としてな!そこらへん勘違いするなよ!」
脅迫犯に付け狙われている人間のする願い事か、と内心苦笑した。ただ、納得の願いごとである。
「で、お前は?」
当然返ってきた同じ質問。遠隔操作のキーで車の鍵を開錠し、エスコートするように助手席の扉を開いて、微笑んで見せた。
「人に言うと叶わなくなるそうなので、秘密です」
二、三回、口をパクパクさせた後、流れるように文句を言い出した教授を助手席に押し込めて車を走らせた。
帰路、ずっと隣から聞こえてくる雑音も仔犬か何かが一生懸命吠えているのだと思えば可愛いものだ。
神様へお願いすれば叶うと信じているほど純粋ではもうないけれど、この願いごとは神様以外の人間に聞かれたくはないな、と思う。
『気まぐれでもわがままでも何でもいいから、この人が楽しそうにしてくれますように』
脅迫犯に狙われている人間のボディガードがする願いごとでは、ないのだろう。
end.
たまに書きたくなるなる。
きっと、私の中のロイエドで一番書きやすいんだろうね。
PR
この記事にコメントする